vol.03
やればやるほどライブが増えて
音楽活動は心身の健康に繋がる
サファリパークDuo
- Profile
- 神奈川県横浜市磯子区在住の高校3年生の姉(トランペット&フリューゲルホルン)と中学1年生の弟(ピアノ&カズー、ボーカル)のジャズユニット。活動を始めて6年間で300回以上のライブに出演。幼いルックスに似合わぬ本格的な演奏は、多くのプロからも注目を集めている。
まるで動物園のようだ!
姉の野村琴音(ことね)さんは、今年4月から特別支援学校高等部の3年生に、弟の郷詩(さとし)くんは中学校1年生になる。
2人が「サファリパークDuo」を結成したのは、2010年の春。琴音さんが小学校の金管バンドでトランペットを始め、その後、舞台に立つ姉の姿にあこがれた郷詩くんが、僕もやりたい! とピアノの練習を始めたのがきっかけだ。バンド名は、姉弟一緒だととにかく賑やか。まるで動物園のようだと父おさむさんが命名した。
琴音さんは未熟児で生まれ、知的障害と運動機能の発達に遅れがあり、5歳までは歩くことすらできず、小学校は個別支援学級で学んだ。そんな琴音さんが音楽に興味を持ったのは、やはり家庭環境にあった。
「おなかに居た頃から音楽を聴き、生まれてからも24時間音楽を聴いていました。特に琴音は5歳までは寝ているか座っているかだったので、本を読み聞かせるか、音楽を聴かせるしかなかったんです。そしてなぜか、オルケスタ・デ・ラ・ルスを聴かせると泣き止む。眠っている時もおとなしめの曲をかけていました」と母由美子さん。
夫妻は共に国立音楽大学卒。おさむさんは打楽器、由美子さんはピアノを専攻。おさむさんはプロ、由美子さんはピアノ教室の先生を務め、かつては「純米吟醸」というピアノとマリンバのデュオを結成し、学校などで演奏した時期もあった。そんな家庭環境だけに、姉弟が楽器に惹かれるのは自然の成り行きであった。もっとも今はおさむさんは、サラリーマン、由美子さんは主婦業中心。規則正しい生活による子育てに専念している。
訪問してまず驚いたのは、そこここに楽器があること。ピアノ、マリンバ、トランペット、ギター、アコーディオン……。更に楽器庫には特に打楽器が多く、スティールパンからドラム、更には様々な民族打楽器まで、楽器の数は百以上とか。まさに楽器の館である。
練習する暇あったら本番
琴音さんがトランペットを始めた切っ掛けは、アマチュア吹奏楽団のトランペット奏者のお姉さんとの出会いで、その後、映画「スウィングガールズ」を見て、「A列車で行こう」を練習したりと、ジャズ好きの父親の影響もあって演奏するようになった。そんな時期に転機となったのが、東京ブラススタイルとの交流であった。
スウィングガールズの舞台、山形県川西町では、映画を記念して毎年音楽祭を開催していたが、家族と共に訪れた琴音さんは、出演の東京ブラススタイルから声をかけられ一緒に舞台に立つことに。それを見た郷詩くんが、僕もやりたいと言い出した次第である。
「郷詩はピアノをやったことは全くなく、いきなりピアノでの伴奏から始めたんです。ですからこの子は普通の弾き方は全然できなくて、琴音の伴奏しかやったことがない。私としては変な指使いなので、見ているとイライラするのですが、でも弾けているので、ま、良いかと、なるべく口を挟まないようにしています」と由美子さん。話を継いでおさむさんは「音楽はのびのびと楽しくなければいけないと思っているんです。だから練習する暇があったら本番(ライブ)をやろうよと言ってます」
習うより慣れろ。ライブを通じての様々な出会いが、姉弟の向上心を刺激しているのだという。
演奏しやすいようにアレンジするのはおさむさん、楽譜が読めないので、ドレミで書いて教えるのは由美子さんの役割。それを姉弟は耳で覚える。そうしてマスターしたレパートリーは、スィングからモダン、ボサノバ、サルサなど様々で優に30曲を数える。
好きに楽しくのスタンス
指導に関しては、プロ、アマを問わずライブで出会った人達がワンポイントレッスンをたびたび行ってくれ、それが自然と励みにもなり上達を促しているという。とにかく本番は多く、結成から6年間で何と300回を超える。地元の横浜ジャズプロムナードや商店街のイベントはもとより、阿佐ヶ谷ジャズストリート、すみだストリートジャズフェスティバル等々の著名なイベントにも参加している。
「パパは昔プロだったので、その繋がりでいろいろな人と会えた。それで以前は『おさむくんの子供なんだ!』と言われることが多かった。でも今は『サファリのパパなんだ!』とパパが言われることの方が多い」と郷詩くん。
「確かに今は僕ら夫婦の知り合いの8割方は、この子達を通じて知りあった人達。それもプロミュージシャンが多い」とおさむさんは苦笑しつつも目を細める。そのくらいサファリパークDuoの人脈は年々広がっているのだ。
「ライブに参加していると、いろいろなところから出演依頼が舞い込み、やればやるほどライブの機会が増えてくるという良い循環になっています。 将来の目標は特にありません。我々はあくまでもサポーターで、子ども達はやりたいように楽しくやってくださいというスタンス。琴音は高校を卒業したら働く予定ですが、音楽と離れることはないと思います。
将来は描かない方が良いと思っています。もし一つ描くとしたら次の本番をちゃんとやろう、それくらいですね」 おさむさんは淡々とこう語るが、そうした野村家の自然体が人々を引きつけるのだ。