インタビュー「楽器と人」

vol.10

初めてサックスを吹いた瞬間
これでプロになると確信した

ユッコ・ミラー(大西由希子)

Profile
今月ご登場いただくのはジャズシーンに突如現れた、新星サックスプレイヤー、ユッコ・ミラー。ピンクヘアの奇抜なルックスと不思議なキャラで人気急上昇中。もちろんそのテクニックは超本格派。ダイナミックな表現力とテクニカルな演奏を武器に、国内外で活躍するトップミュージシャン達との共演や、海外のフェスティバルに出演するなど、今最も熱いプレイヤーの一人と言えるだろう。そんな彼女のサックス人生は、まさに見た目通りのエキサイティングなエピソードの連続であった。

世界的プロ奏者を目指して

 ——ユッコさんの楽器との出会いについて教えて下さい。

3歳の頃から親に無理矢理ピアノを習わされていました。もう本当に行くのが嫌で、やらされてる感があったんでしょうね。しかも最初1年くらいの間は自分の家にピアノがなかったんですよ。ピアノがないから練習のしようがないじゃないですか。でも教室に行くとみんな練習してきているので上手に弾けて、私だけ練習できてなくて、「は?」って感じですよね。5歳くらいのときに、もう本当に嫌になって失踪したこともありますよ(笑)。

——失踪ですか(笑)。サックスはいつからやられているんですか?

高校1年生のときに、私は帰宅部になるつもりだったんですけど、吹奏楽部に入りたいという友達がいて、流れで体験入部に付いていったんですよ。その友達はサックスがすごくカッコイイからやりたいと言っていたんですけど、実はその時まで私はサックスという楽器自体知らなかったんです。でも何となく私もサックスを吹いてみたら、最初に音が出た瞬間にピッカーン!と来たんですよ。ものすごい衝撃が走って、「あ、私は絶対これでプロになってやる」って思ったんです。

——たった1音で!? すごいですね。じゃあ、それから吹奏楽部に入部してサックスを学んでいったわけですね。

そうですね。先輩に教えてもらいながら。うちの吹奏楽部は、「音楽は音を楽しむもので争うものではないからコンクールには絶対に出ない」という顧問の先生の方針で、割と緩いというか、みんな遊びながら活動している感じだったんですけど、私は超真面目に練習していましたよ。個人でコンクールに出て、後で先生にばれて怒られたこともありましたし、路上で演奏したりもしていました。

——路上!? 随分アクティブですね。何故路上で演奏しようと思ったんですか?

自分は世界で活躍するプロ奏者になるつもりでいたので、すぐにでも何か活動しなきゃと思ったんですよね。でも地元は三重県の田舎なのでジャズクラブもないし、それどころかジャズすらよく分かっていなかったんですが、とりあえずライブをしようと思って、一人で路上ライブをやっていました。

——高校からサックスを始めたのに、レパートリーはあったんですか?

路上ライブは高校2年生からやっていたんですけど、そのときに吹ける曲をひたすら吹いていただけ。でも演奏してると道路工事のお兄さんとかタクシーの運転手さんがお菓子を持ってきてくれたり、「これでジュースでも買いな」って120円くれたりして。そのときに思ったんですよ、「これが最初のギャラだ!」って。記念すべきその120円は今でもずっと取ってあります。

——高校生のときにグレン・ミラー・オーケストラの前で演奏したとか?

それは高校3年生のときですね。自分は世界的なプロになるつもりでしたから、地元の田舎にグレン・ミラーが来るとなったら、そりゃ行くに決まってるじゃないですか。それでコンサートを見た後に、こんなスゴイ人達が来たんだから絶対に会いたい! と思って、出待ちをして、彼等が出てきたときに自分が吹けるジャズの曲を吹きまくったんです。そうしたら彼等が「ワーォ!」みたいになって、演奏に合わせてノリノリで踊ってくれたんです。「明日から僕たちのツアーに一緒に参加しない?」って誘ってくれたんですけど、「明日は学校があるから無理です」って断っちゃいました(笑)。

でも、去年グレン・ミラー・オーケストラが来日したときに、正式にオファーをいただいて、来日ツアーにスペシャルゲストとして参加しました。

E.マリエンサルに師事
愛器はキャノンボール

——ユッコさんと言えばジャズという印象ですが、ジャズとの出会いは?

うちはお父さんもお母さんも全くジャズを聴かないんですけど、たまたまお父さんが買ってきた海賊版みたいな、ジャズのオムニバスCDが家に置いてあって。いわゆる『LEFT ALONE』とか『Take Five』とか有名な曲がいっぱい入っていて、それを何となく聴いたときに「これがジャズのサックスなんだ」と思ったのが最初ですね。だから特別ジャズに興味があった、というわけでもなかったんです。

——でもその後本格的にジャズの道に進まれていますよね。実際にジャズを勉強し始めたのはいつ頃から?

高校生の時は全然ジャズをやっていなかったし、吹奏楽部でもディズニーメドレーとか野球の応援歌とか、せいぜい『A列車で行こう』『シング・シング・シング』をやった程度で、ジャズが何なのかよく分かっていなかったんです。

でも高校卒業してからジャズに興味が出てきて、本格的に勉強したいと思って⋯⋯。でも地元は本当にジャズとか一切ないような環境なので、大阪まで通ってレッスンを受けていました。最初はジャズ特有のノリとかアドリブとか、全然できなかったんですけど、気付いたら何となく吹けるようになっていました。

——チック・コリア・エレクトリックバンドのサックス奏者、エリック・マリエンサルにも師事しているんですよね

エリック・マリエンサルのサックスがメッチャ格好良くて大好きなんです。何とか彼に習いたいと思っていたんですが、そんなチャンスは滅多にないじゃないですか。そう思っていたときに、大阪の楽器屋さんで“エリック・マリエンサル来日公演”というポスターを見つけたんです。

そのコンサートの関係者に片っ端から電話を掛けて「個人レッスン受けられませんか?」ってお願いしたんですけど、当然みんな「絶対ダメ」って。これはもう、本人にお願いするしかないと思って、コンサート当日に会場のそばをうろうろしてたら、何と本人がいたんですよ! 「レッスンプリーズ」って言ったら、「オッケー」ってメッチャ気さくな人で。それ以来、来日する度に個人レッスンを受けているんです。2014年には師弟対決ライブも開催しました。

——現在使っている楽器について教えて下さい。

3年前からキャノンボールのヴィンテージ・リボーンシリーズを使っています。私は楽器のことは全然詳しくないので、それまでキャノンボールというブランド自体知らなかったんですが、たまたまクロサワ楽器さんで薦められて吹いてみたら一目惚れしてしまいました。
今までヤマハも使ったし、セルマーもヤナギサワも一通り持ってはいるんですけど、キャノンボールを初めて吹いたときに、すごくピッタリマッチしたというか、「こんな楽器があったんだ!」って思ったんです。

——実際に2年間キャノンボールを使ってみて、どんなところが気に入っていますか?

今使っているヴィンテージ・リボーンシリーズに関しては、音のコントロールがしやすくて、繊細だけどパワーもあるところ。例えばジャズのライブだとマイクがない箱でやることもあるんですが、そういうときでも後ろの席まですごく良く音が届くし、自分が演奏したい細かなニュアンスまでしっかりと表現できるんです。見た目がお洒落なところも気に入っているポイントです。

NYでの1stアルバム制作
夢はグラミー賞!

——昨年9月には待望の1stアルバムが出ましたが、レコーディングはニューヨークで行ったとか。

すごく刺激的でした。リズム隊が全員黒人で、もうグルーヴ感が全然違うんですよ! フィーリングとかタイム感とか、これまで体験したことのない感覚で、全部彼等に身を任せて演奏しているとすごく気持ちいい。今まで気付いていなかった新しい自分を見つけた感じ。自分でもちょっとビックリしています。

——1stアルバムはどんな内容なんですか?

ジャズを知らない人が聴いても楽しめる曲が沢山入っていて、でもジャズが好きな人も満足できるような内容になっています。このアルバムを切っ掛けに、沢山の人にジャズの魅力が広がれば嬉しいですね。

曲はオリジナルが2曲とカバーが7曲の全9曲。アメリカで大ヒットしたマーク・ロンソンの『アップタウン・ファンク』のカバーも入っているんですけど、ロニー・プラキシコ(サウンドプロデューサー)さんのアレンジがすごくて、超カッコイイですよ。是非、沢山の人に聴いてもらいたいですね。

——今や国内外のアーティストと多数共演するなど、当初の目標通り世界的な奏者として活躍されていますが、“ここまできたぞ!”と感じた出来事はありますか?

一昨年、世界的なサックス奏者のキャンディ・ダルファーのライブを見に行ったんです。普通に私は彼女の大ファンで、CDを買ってサイン会の列に並んでいたんですが、サックスを持っていたので、「あなたもサックス吹きなの? ちょっと吹いてみてよ」って彼女に言われて、「これはチャンス!」と思ってちょっとどころか思いっ切り吹きまくったんですよ。そうしたら彼女が「ワォー! アメージング! 明日のブルーノート東京での公演にスペシャルゲストとして出演して!」と言ってくれたんです。まさか世界のトップと共演できるなんて思ってなくて、すごく興奮しましたね。
後はやっぱり、ニューヨークでのレコーディングですね。グラミー賞を受賞されている世界的なアーティスト達が参加して下さって、もう感無量でした。

——ユッコさんがサックスを演奏するうえで大切にしていることは何ですか?

一番大事にしているのが、聴いている人に届けるということ。私は自分が満足しているだけでは、全然音楽として成立しないと思っていて、やっぱり聴く人に届いてなんぼだと思っているんです。それは常に意識していて、自分の中にある想いを相手に届けるためにちゃんと音に変換できるよう、今でも日々努力しています。

——今後の目標や夢を教えて下さい。

夢はグラミー賞を獲ること! そのためにもいろんな経験をしたいと思っています。やっぱり自分が作る曲や演奏って、自分の経験が大きく影響すると思うんです。レコーディングでニューヨークに行ったこともすごく大きかったし、韓国とかマレーシアのジャズフェスティバルに出演したことも良い経験になりました。
 例えばおじいさんのサックスプレイヤーがいたら、音を聴いただけで、「あ、この人おじいさんだ」って分かるじゃないですか(笑)。それくらい奏者の人生が音楽にメッチャ出てるので、私も音楽の勉強だけじゃなくて、いろんなことに挑戦していきたいですね。

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