インタビュー「楽器と人」

vol.02

行政のリードで産学民が挙って
音楽・楽器のまちづくりに邁進

浜松市|鈴木康友 市長

Profile
昭和32(1957)年、静岡県浜松市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾し、同60年に卒塾(第1期生)。平成12年、第42回衆議院議員総選挙に静岡8区から出馬し初当選、2期目も当選した。同19年には浜松市長に立候補し当選した。座右の銘は「至誠通天」(真心をもってすればいつかは認められる)。趣味は野球とゴルフ。

音楽のまちづくり35年

 「楽器との最初の出会いは、幼稚園の頃、ヤマハ音楽教室でオルガンを習ったことでした。ただ近所に習っている子がいなかったので嫌になり、途中で止めてしまったんですよ、今思うともったいないことをしましたね。

 小学校4年生の時にジュニアクワイア、昔の児童会館少年合唱団に入り、中学校でも合唱部に在籍。高校時代は野球漬けでしたが、大学では混声合唱団に所属した時期もあります。

 一頃はバロック音楽に傾倒し、大学では中世・ルネサンス音楽の権威である皆川達夫先生の授業を履修しました。ルネッサンス期の宗教音楽とか、自分で言うのも変ですが割と詳しいんですよ。今はジャズも聴くし、最近はカラオケも……(笑)」

 そんな鈴木市長だけに、音楽への理解も思い入れも人一倍である。

 浜松市による“音楽のまちづくり”の取り組みは、栗原勝市長時代の1981年に始まり、続く北脇保之市長、そして鈴木市長へと継承されて、既に35年に及ぶ。

 音楽でのまちづくりを標榜している市区町村は、全国に数多く存在するが、浜松市が他と一線を画しているのは、その基盤を成しているのが“楽器のまち”でもあるという点。

 ヤマハ、河合楽器製作所、鈴木楽器製作所、そしてローランドと、世界的に著名な大手メーカーのほとんどが静岡県、それも浜松に集中しており、静岡県楽器製造協会によれば、エリアの楽器生産出荷額(2014年度)は、全体の約70%と圧倒的。しかも長い歴史と伝統を有するという点では世界に類例を見ない。

音楽分野でアジア初

昨年12月6日開催の「第9回浜松国際ピアノコンクール」本選。表彰式での入賞者と市長、審査委員長。イタリアのアレクサンデル・ガジェヴさん(右から4人目)が優勝した
写真提供=cHIPIC

 “音楽のまち”としては、3年毎に開かれる浜松国際ピアノコンクール、毎年の浜松国際ピアノアカデミー、ハママツ・ジャズ・ウィーク、浜松国際管楽器アカデミー&フェスティバル、やらまいかミュージックフェスティバル等々を開催しており、小規模イベントとなると枚挙に暇がない。また、全国でも珍しい市営の浜松楽器博物館を運営していることも“楽器のまち”ならではの特色と言える。

 「音楽のまちづくりも大分成熟してきましたし、広がりも出てきました。そろそろ外部に向かって何か発信したいと考えていた矢先に出会ったのが、『ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)創造都市ネットワーク』でした。早速加盟を申請したところ、一昨年(2014)12月に認定されました。

 音楽分野では世界で7都市目、アジアでは初の加盟となったので、市の存在感をアピールできましたし、このネットワークを活用していろいろと取り組んで行きたいと思っています。

 例えば海外都市との文化面、産業面での交流とか、いろんな波及効果が今後生まれてくると思います」

 鈴木市長の行動は早い。昨年12月には、加盟を記念してアクトシティ浜松のコングレスセンターで、「世界創造都市フォーラム in 浜松」を開催し、同ネットワークに加盟する世界の音楽都市の政策や事業事例の紹介、元フランス文化大臣ジャック・ラング氏の基調講演等々を行って理解と交流を深める一方、会期中、隣接する展示イベントホールで「浜松楽器メイカーズフェスティバル」を開催。音楽・楽器のまち浜松を強力にアピールした。

浜松のセールスマンに

 鈴木市長は、自ら“浜松市のセールスマン”を宣言しており、あらゆる機会を捉えて浜松市を世界に積極的に売り込むという目標を掲げている。「ものづくりのまち」としての実力や、様々な観光資源、特産物を国内外に発信し、知名度や都市イメージの向上を図り、活力ある浜松を目指している。

 また浜松市は、ユネスコ創造都市ネットワークのみならず、UCLG(都市・地方自治体連合)という、世界最大の都市ネットワークにも加盟しており、下部組織のASPAC(アジア太平洋支部)の活動が盛んなことから、そういったネットワークも活用。音楽創造都市に認定されたことで、一層国内外への発信力を増すことになった。

 「そうした環境を整備するのは我々の役目で、後は企業や市民団体にそういうものを活用して頂きたいのです。

 先ごろのNAMMショー訪問もその一環ですが、実際に行って見て規模の大きさに本当にビックリしました。世界の主だった楽器関連企業がほとんど全て参加しており、浜松の各社の世界での存在感も実感でき、浜松は世界でも突出した楽器産業のまちなんだと、改めて認識しました。

 今回、NAMM主催の国際合同会議でプレゼンテーションできたことは、浜松を知って頂く上で良かったと思っています。来年のNAMMショーには、ジェトロ(日本貿易振興機構)の協力を得ながら、浜松市としてブースを設け、楽器関連企業を紹介する計画です」

 今年は、浜松市として「2016楽器フェア」(11月4日〜6日/東京ビッグサイト)への参加を表明しており、地元浜松では「世界音楽の祭典 in 浜松2016」(11月3日〜5日/アクトシティ浜松他)の開催や「サウンドデザインフェスティバル2017」を計画と、音楽・楽器でのまちづくりは俄然拍車がかかっている。

 「浜松には楽器関連企業が約200社と非常に多いので、音楽に関わる人材が全国から集まってきます。また定年退職後のベテランも当地には大勢いますから、そうした人的なインフラが整っていることは凄い財産だと思っています。プロ並みの演奏をする人もたくさんいますから、子供の音楽教育や指導に一肌脱いで貰うことも可能なのではないでしょうか。

 また、今後ますます発展と広がりが期待されるデジタルサウンドに関しても、教育機関等と人材の育成に相互協力したいと考えています」

 行政のリードで産学民が挙って音楽楽器のまちづくりに邁進する。まち興しの理想的な例であることは間違いない。今後の展開が注目される。

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